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【スタートアップ深層】Smart Resilin - 環境負荷の低い弾性タンパク質を独自の技術で人工的に生産

 毎年1000社近いスタートアップ企業が誕生するイスラエル。革新的な技術やプロダクトを生み出し、世界から注目を集めているスタートアップの中から、特に「自動車・ヘルスケア・IoT」という3つの領域でイノベーションを起こしている企業に焦点を絞って取材を行った。


 今回は、Smart Resilin 社に彼らの創業過程や事業戦略、今後の展望、さらには日本市場への思いや本音を聞いた。

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※ 本記事は、JETROのイスラエル現地パートナーとして「Global Acceleration Hub」プログラムの一貫で作成され、2021年5月にJETRO Innovationに掲載されました。PDF版が記事下部よりダウンロード可能です。

 


Dr. Liron Nesiel (Nuttman)


◆ 遺伝子工学を用いて生産された「レシリン」とは


昆虫の表皮にある Resilin(レシリン)は、ノミが跳んだりハエが羽ばたくために使われる弾性タンパク質で、自然界で最も高い弾力性と伸縮性を持つ。「Smart Resilin 社 (以下:Smart Resilin)」はこのレシリンを、遺伝子工学を用いて人工的に生産する事で、史上初の高品質かつ「環境負荷の低い」代替材料として多くの商品に取り入れる事に成功した。


今回、Smart Resilin の CEO である Liron Nesiel (Nuttman)氏に取材を行った。

 

◆ 「バイオミミクリー」を目標とした Smart Resilin の設立


約 10 年前 Smart Resilin は「バイオミミクリー」- 生物が何億年もの進化から生み出した構造や機能を模倣し新しい技術を作る事-を目標として設立された。


当時ヘブライ大学で約 16 年間、共に研究した CSO(最高戦略責任者)である Prof. Oded Shoseyov に会社設立を提案され現在に至る。


Nesiel氏はヘブライ大学農学部にて分子生物学、タンパク質工学、生物工学の博士号を取得後、博士研究員としてレシリンを使ったタンパク質微細孔(生体ナノポア)の性質について学ぶとともに、その複合材料を開発した。


現在の Smart Resilin の CEO に就任する前は、同社の CTO(最高技術責任者)としてレシリン、 またそれをベースにした商品開発のための技術基盤を構築し、革新的な商品の PoC(概念実証)を実行した。スタートアップの会社を経営していく上で Nesiel 氏はこれまで様々な壁に直面し困難な場面が多くあったが、その分やりがいがあり、人との出会いから会社や自身を成長できたそうだ。


環境問題への取り組み


Smart Resilinは、レシリンを生分解可能な素材として開発しさらなる品質向上と環境問題に取り組むため、以前同社が研究を行っていたヘブライ大学から研究結果で得たデータの知的財産権のライセンス契約を得ている。


ゴムやナイロン、プラスチック素材の製品への代用が可能な点を活かし、特にスポーツシューズや縮 毛矯正製品、フレキシブル画面素材への使用に力を注いでいるほか、3D プリント素材や航空宇宙関 連製品にも活用されている。製品用途によってレシリンの取り入れ方を変える事で各製品のニーズに マッチさせている(図1)。「現在使われているプラスチックやナイロンの製品を 1%でもレシリン に変える事ができれば環境保護に大きく貢献できる。」と Nesiel 氏は述べる。

図1. レシリンの使用製品例(同社HPより)

 

◆ 成長の鍵となる「戦略的パートナーシップ」


。また会社を成長させるため Smart Resilin の商品価値を見出し、投資だけではなく製品の共同 開発などで協力し合える戦略的パートナーシップを求めている。


Smart Resilin はレシリンを取り入れる商品を選ぶ上で、その商品の市場の法規制が比較的緩い事、市場での高い普及率を望める事Smart Resilin はこれまでヘブライ大学、米国の資金調達サイトであるエンジェルリスト、および投資会社からの資金面のサポートを受け、研究室規模での開発を行っているが、今後さらなる品質向上やより幅広い製品分野への応用、市場での商用化を実現するにはより多くの資金が必要だ。そのため 資金調達は成功への鍵であり、資金調達完了から約 2 年で市場向けの商用化が可能と Nesiel 氏は述 べる、優れた技術革新力を持つ事業会社が多くいる事に重点を置いている。レシリンの可能性を最も理解したSmart Resilin は今後市場で必ず成功するだろう。

 

CEOから日本企業に向けたメッセージ

 今後レシリンを伸縮性や弾力性を必要とする電子機器やロボットのパーツに代用することで、品質向上につながります。レシリンは「Society5.0」でロボットとの共存を目指し、物流や介護支援など多くの事を期待する日本に大きく貢献できると思います。今は日本の化学薬品会社と戦力的パートナーシップを組んでいますが、今後他の企業とも提携する事で日本市場への参入を目指していきたいです。

− Liron Nesiel (Nuttman)氏




◆ 本記事はJETRO Innovationに掲載されました。

◆ PDF版の記事ダウンロードはこちら

◆ 3月は2社に取材を行っており、PDF版では2社まとめて紹介しています。


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