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COVID19へのイスラエルの取り組みと"sense of urgency"

イスラエルのコロナの状況とその対策、 スタートアップへのインタビューから現地のリアルな声をリポート

世界の国々が新型コロナウィルスの拡大防止に向けて試行錯誤を続ける中、イスラエルでは、感染者の減少に伴って、5 月上旬から段階的な規制緩和が開始された。5月4 日から図書館やホテルが、5月7日からショッピングモールなどに対して、営業再開が許可された[i]。同国では4 月末に感染者数の増加がピークを超し、以降は減少傾向が続いている(図1[ii])。特に、5月10日には1日の新規感染者数が14人を記録し、過去2 ヶ月における最小値を更新した。他国と比較しても、新規感染者数の減少は顕著であると言えるだろう。

規制緩和によりテルアビブ市内のビーチに出かける人々の様子[i] Credit: Moti Milrod

 近年、イスラエルは“中東のシリコンバレー”と呼ばれ、注目を集めている。300 社以上の多国籍企業が拠点を構えているだけでなく、ハイテクスタートアップ企業が毎年1,000 社近く誕生してお り、連続起業家も多い。なぜイスラエルで数多くのスタートアップが誕生するのかについては諸説あ るが、キーワードのひとつに”Sense of Urgency”というフレーズがある。日本語への直訳は簡単で はないが、「周囲の状況や変化を機敏に捉える」という意味合いを含む。本特集では、”Sense of Urgency”の一端に触れながら新型コロナウィルスに関するイスラエルの取り組みを紹介する。さら に、スタートアップ企業 1 社(Algaennovation 社)に取材を行い、現在の状況や新たな市場機会、 今後の事業戦略や展望を聞いた。

 

◆ 帰国できず身動きが取れない自国民を航空機で救出

図2 南米から帰国したイスラエル人 (Credit: Tomer Neuberg/Flash90)

 3 月中旬、イスラエル政府は、南米ペルー共和国で 身動きが取れない状態におかれていた自国民を空路で 救出した。ペルーをはじめとする南米諸国は、イスラ エルで兵役義務を終えた若者がバックパック旅行で訪 れる人気スポットだ。しかし、3 月15 日のペルー大 統領による緊急事態宣言発令に伴って、ペルー国境は 封鎖された。イスラエルのHaaretz 紙によると当時、 現地にはおよそ1,000 人のイスラエル人が出国できな い状態に置かれていた[iii]。

 これを受けて、イスラエル政府は国営の航空会社であるエル・アル航空と連携し、航空機を現地に 派遣し、3 月20 日までの5 日間で1,000 人以上の救出を行った。また同社は同じ時期、インドに取 り残されているイスラエル人3,000 人を救出するために航空機を手配している。 さらに2 月には、日本の横浜港に寄港していたダイヤモンド・プリンセス号に乗船していたイスラ エル人11 名がイスラエル外務省のチャーター機で帰国した。このように、イスラエル政府は国外で 身動きが取れない自国民に対し、積極的かつ素早く救援の手を差し伸べてきた。

 

◆ 政府が1.8 億ドル相当を民間企業の創業資金として援助

図3 IIA によるR&D 計画の公募 (同機関HP より)

 4 月はじめ、イスラエル政府はハイテク企業を対象とする6.5 億新シェケル(1.8 億米ドル相当) の資金援助を決定した。企業の研究開発促進を行うイスラエル・イノベーション・オーソリティー (略称IIA)から、創業資金として企業に提供される。IIA には2020 年に入ってから4 月時点で既 に1,000 件を超える申し込みがあったという[iv]。このうち約400 件はヘルスケアに関連する企業 だ。

 また、IIA はコロナウィルス感染症予防や治療に関する R&D 計画の公募を行った(図3)。あらゆる分野の技術 が対象で、事業が画期的で認可が下りた場合、R&D 費用 のうち最大70%の援助を受けることができる[v](応募は 既に締切済み)。

 

スタートアップへのインタビュー

 

◆ 次世代の栄養源となりうるマイクロアルジー(微細藻類)の生産技術を開発

図4 生産設備のイメージ (同社HP より)

 Algaennovation 社は、栄養価に富んだマイクロアルジ ー(微細藻類)の画期的な生産技術を開発した。現在、 イスラエルをはじめ、米国、アイスランド、ベルギーに 拠点を構えている。同社の特徴は、オメガ-3 脂肪酸をは じめとする栄養価を豊富に含んだマイクロアルジーを、 完全に制御された屋内施設で生産する点だ。アイスランドの施設では、地熱と豊富な水源を利用する ことで高い持続可能性を実現した。衛生管理が行き届いた施設内では、マイクロアルジーの培養に必 要な要素を緻密に制御しており(図4)、24 時間・365 日いつでも出荷可能だ。今回は同社のCEO に取材を行った。

 「弊社が開発・生産するマイクロアルジーは、栄養価が非常に 高く、水産養殖業や家畜の飼料から、健康サプリメントに至るま で幅広い用途で利用することができます。現在は健康食品市場の 需要増加に注目しており、更なる進出を模索中です。弊社のマイ クロアルジーをサプリメントとして服用することで、免疫力の向 上が期待できます。自然由来な点もメリットです(同社CEO)。」

 

◆ 感染症拡大の影響はあるが、一時的

 同氏によると、感染症拡大によって同社の顧客企業が影響を受けて いるとのこと。「一時的なものではありますが、需要の減少が生じて います。また、世界的に物流が停滞しているため、出荷が以前よりも 困難になっています(同氏)。」

◆ 予防医学の観点から、サプリメントの需要が増加すると予測

自動車に様々なアプリケーションがインストール可能に(同社HPより)

 Algaennovation 社が現在最も重きを置いている事業が、健康食品市場だ。マイクロアルジーは、 人体にとって不可欠な必須アミノ酸を全て含み多様な栄養素の直接摂取が可能なため、日常的に服用 するサプリメントにも最適な素材であると同社CEO は強調した。今後、日頃から免疫力を高めるこ とで病気にかかりにくい身体を作るという需要が高まるという説明でインタビューを締め括った。

 

コロナ・タイムライン

※ 感染者数・死亡者数は共に新型コロナウィルス感染症に関する数値

※ イスラエル保健省やイスラエル政府プレスリリースなどをもとに作成

 

参考文献

[i] Prime Minister’s Office, (2020, May 4). Joint Prime Minister’s Office and Health Ministry Statement [Press release]. Retrieved from https://www.gov.il/en/departments/news/spoke_regulations040520 (Accessed 10 May 2020).

[ii] Hanukoglu, Israel. (2020, May 10). "Cumulative graph of COVID-19 cases in Israel". Retrieved from https://www.science.co.il/medical/coronavirus/Statistics.php (Accessed 10 May 2020).

[iii] Sommer, A. (2020) ‘1,000 Israeli Backpackers Stranded in Peru Due to Coronavirus Outbreak to Be Flown Home’, Haaretz, 17 March. Available at: https://www.haaretz.com/israel-news/.premium-1-000-israeli-backpackers-stranded-in-peru-due-to-virus-outbreak-to-be-flown-home-1.8685047 (Accessed 10 May 2020).

[iv] NoCamels Team. (2020) ‘Israel Approves $180M Grant Package To Support Local Tech Industry’, NoCamels.com, 2 April. Available at: https://nocamels.com/2020/04/israel-innovation-authority-tech-coronavirus/ (Accessed 10 May 2020).

[v] Israel Innovation Authority, (2020, March 17). Call for Proposals for R&D Plans of Industrial Products for the Prevention and Treatment of the COVID-19 [Press release]. Retrieved from https://innovationisrael.org.il/en/opencall/industrial-products-for-prevention-of-coronavirus (Accessed 10 May 2020).

 

◆ 本記事はJETRO Innovationに掲載されました。

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