【スタートアップ深層】More Foods - 主要アレルゲンを含まず、味も「肉にそっくり」な代替肉食品
毎年1000社近いスタートアップ企業が誕生するイスラエル。革新的な技術やプロダクトを生み出し、世界から注目を集めているスタートアップの中から、特に「自動車・ヘルスケア・IoT」という3つの領域でイノベーションを起こしている企業に焦点を絞って取材を行った。
今回は、More Foods 社に彼らの創業過程や事業戦略、今後の展望、さらには日本市場への思いや本音を聞いた。 【前編:Bosco - 子供のプライバシーを重視しコントロールしないモニタリングアプリ】はこちら
※ 本記事は、JETROのイスラエル現地パートナーとして「Global Acceleration Hub」プログラムの一貫で作成され、2020年7月にJETRO Innovationに掲載されました。PDF版が記事下部よりダウンロード可能です。
More Foods(https://www.more-foods.co/)
Mr. Leonardo Marcovitz(CEO)
◆ 食肉による動物の犠牲を無くすために代替肉食品を開発
More Foods 社(以下、More Foods)は、味や食感は牛肉によく似ているが、植物と天然酵母によってのみ構成されている代替肉食品を開発している。2020 年における代替肉 食品の世界市場は約2500 億円に達しており、今後も成長が 期待される領域だ (株式会社矢野経済研究所, 2020)。代替 肉食品を開発するスタートアップ企業の中には、アメリカで 上場を果たした企業もある。More Foods はどのような独自性で市場獲得の戦略を立てているのか、創業者であると同時に自身もベジタリアンであるLeonardo Marcovitz 氏に取材を行った。
◆ 動物福祉と環境負荷の側面から、近年「フレキシタリアン」になる人が急増
More Foods の製品は、フレキシタリアンと呼ばれ、近年急増しているカテゴリーに属する人々を ターゲットにしている。フレキシタリアンは、”flexible(柔軟な)”と”vegetarian(菜食主義者)” を掛け合わせた造語で、基本は植物性食品を中心に食べるが、時には肉や魚も食べる柔軟なベジタリ アンスタイルを取る人々のことを指す。CEO のMarcovitz 氏によると、フレキシタリアンの考えに 共感する人が欧州や北米を中心に急増しているという。
「フレキシタリアンになる動機は大きく分けて2 つあります。1 つ目は動物を犠牲にして食物を得 ることに倫理的な抵抗を感じる場合です。2 つ目は、畜産の過程で発生するCO2 や必要となる水資 源が環境に与える負荷を軽減するべきだと考える場合です。私自身、特に後者について、持続可能な 食糧源としての課題を感じ、ベジタリアンに転向しました」とMarcovitz 氏は述べた。
図1. More ビーフの調理例 (同社HP より)
◆ 大豆などの主要アレルゲンを含まないが、栄養価が高く、味も「肉にそっくり」
More Foods の強みは、主要なアレルゲンを含まない 代替肉食品の開発に成功した点にある。大豆や乳製品を はじめとする食物アレルギーの原因となるアレルゲンを 含まない製法を確立した。また、食物繊維は5%、グル テンは1%未満に抑えている。一方で、タンパク質の含 有量は20%以上と多く、栄養価が高いことが特徴だ。
さらに、同社が製品化を進めている「More ビーフ」は、味 だけでなく香りも牛肉に似ているという。 「一般的な代替肉食品の多くは、大豆をはじめとする豆由来のタンパク質やグルテンなどの主要ア レルゲンを含んでいますが、弊社はそれらをほとんど使用していません。加えて、天然植物由来の原 料にこだわることで身体に良い『クリーンラベル』を実現しています(同氏)。」
◆ 単価が高くても選ばれることが実証実験から明らかになった
同社が製品化の最終段階において、イギリスのロンドンで評判の飲食店と共同で実証実験を行った ところ、興味深い傾向が見えてきたという。実証実験により、植物由来の食事を求めている顧客は、 食事の単価が一般的な相場よりも高額であっても、そのメニューを選択する傾向が高いことが明らか になったとMarcovitz 氏は強調した。
「イギリスをはじめ、欧州や北米地域では、植物由来の食事に対する需要が増大しています。こう いった健康的な食事を望む顧客層は、より多額の料金を支払う傾向があります。レストラン側にとっ ても、弊社が開発するような代替肉食品を提供することが売上の増加につながるため、メリットがあ るはずです(同氏)。」
◆ 提携企業の生産設備を活用する戦略で、迅速な市場開拓を目指す
More Foods は現在、自社にとって初商品となる牛肉に似た代替肉食品の販売に向けて準備を進め ているが、生産設備を自前では持っていない。「より素早く、かつスケーラブルに動けるようにする ためです」と、Marcovitz 氏は述べた。同社は、一般的な食品加工設備を持つ工場であれば弊社の製 品を生産できるよう製造工程を工夫した。これにより専用機器が不要となったため、販路や市場に応 じて柔軟に拠点を変えることが可能になる。
同氏は「短期的には、長期保存が可能な冷凍食品やレストランへの提供から徐々に市場を獲得していき、中・長期的には、消費者に直接小売できるよう戦略を練っているところです」という展望で取 材を締め括った。
参考文献 株式会社矢野経済研究所. (2020). 2020 年版 期待高まる代替肉ビジネス(植物由来肉・培養肉)の将来展望 ~フードテックが解決する持続可能な食の未来~.
CEOから日本企業に向けたメッセージ
欧州や北米を中心に、食べ物に関する消費者の動向は大きく変化 しつつあります。フレキシタリアンのような新しいスタイルは、既 に日本でも浸透しはじめています。日本・アジア圏に広く販売網を 持っている企業と協業できることを楽しみにしています。協業によ り、消費者の嗜好の変化に対応した新商品を素早く市場に投入する ことができると考えています。
− Leonardo Marcovitz 氏
◆ 本記事はJETRO Innovationに掲載されました。
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◆ 7月は2社に取材を行っており、PDF版では2社まとめて紹介しています。
【前編:Bosco - 子供のプライバシーを重視しコントロールしないモニタリングアプリ】はこちら
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