イスラエル自動車技術産業の現在と未来:前編



自動車産業の基盤を作った2つのプロジェクト


イスラエルの自動車産業の物語は、モービルアイ社による2014年の大型IPO、その後2017年のIntelによる大型M&Aにより始まった。しかし、自動車産業発展の始まりは、それよりずっと前の2008年だと言える。


2008年、イスラエルでは2つの大きなプロジェクトが開始した。


1つ目は、ベタープレイス社の電気自動車開発プロジェクトだ。こちらのプロジェクトは失敗に終わったものの、技術・人材育成の両面で、近年のイスラエル自動車産業を支える土壌を作った。実際、ベタープレイス社が開発した充電管理、車両間の通信などの技術が、近年の自動車業界やそれ以外の業界でも適用され始めている。


2つ目は、GMの先進自動車技術のR&Dセンターの設立だ。当時の自動車業界では、世界の自動車生産拠点から遠く離れたイスラエルにR&Dセンターを開設することは、決して容易なことではなかった。しかし、このR&Dセンターは数年のうちに、世界の自動車産業の中で最も先進的な技術の研究開発センターの一つとなった。


ベタープレイス社が破産してしまったことや、GMのR&Dセンターの活動がアメリカの大企業特有の秘密主義で行われていたことから、これらのプロジェクトは世界中の投資家からの注目を集めなかった。


モービルアイの快進撃


その後、モービルアイ社の成功により、イスラエルは投資家や自動車業界に正式に注目されるようになった。


モービルアイ社は、数年にわたる開発の末「自動車用先進運転支援システム」(ADAS)という金字塔を打ち立てた。マシンビジョン技術により、この分野のパイオニアとなったモービルアイは、競合他社を10年以上も凌駕し、自動車業界の「スーパーサプライヤー」となることに成功した。


同社が2014年にIPOしたことで、多くのイスラエル人起業家が先端自動車技術に参入しただけでなく、それまでベタープレイスの破綻をイスラエル企業への投資の「赤信号」と考えていた世界の投資家が、このIPOを機にイスラエルに戻ってきた。


このような流れは、2017年にモービルアイがインテルに売却された後、さらに勢いを増した。2010年以降、イスラエルのスタートアップ企業40社が自動車分野に特化した自社への設備投資・研究開発投資を行い、さらに300社のイスラエル企業が自動車分野にも応用可能な技術を開発した。また、2014年から2018年にかけて、イスラエルの自動車技術への投資金額は、2010年から2013年に比べて400%増加した。


モービルアイの快進撃を受け、多くの大手自動車関連企業がイスラエルにR&Dセンターを開設した。現在、世界の主要自動車メーカー15社のうち10社がイスラエルに現地法人を開設している。また、自動車業界大手企業や、Uber、Googleなどは、資本市場の風向きをすぐに察知して「2019年以降に商用の自律走行車を作る」という計画を急いで発表し、ジャーナリストたちも異口同音に「自律走行車は、まもなく自動車産業の大きな転換を生むだろう」と述べていた。


自動車産業が直面した課題


このような背景より、2017年から2018年にかけては、イスラエルの自動車分野スタートアップ企業にとって大注目された年となった。イスラエルのスタートアップ企業の多くは、センサー、人工知能、サイバーセキュリティ、車両間の通信など、自律走行車の最先端技術に焦点を当てることを選択し、数千万ドル、数億ドルの資金調達を行った。


しかし、多くの場合、この様なテクノロジーバブルに時間は味方をしてくれなかった。

自律走行車の量産化に向けた暗黙の "デッドライン "である「10年後」が近づくにつれ、障壁があらわれた。


最大の障壁は、今も昔も「世論」である。世間では、自動運転への関心が薄れ始め、恐怖や不安さえ抱くようになった。米国議会や欧州連合(EU)の自動運転に対し消極的な規制当局は、何年も前から中傷を続けており、ドライバーレスカーが普通の車と一緒に公道を独立して走行できるようにするための規制の策定に、いまだに時間をかけている。これに加えて価格の問題もあり、当面は政府が補助金を出してくれる「ロボタクシー」にしか使えない。


これらの障壁に直面した自動車メーカーは、自律走行技術の普及予測を先送りし始めており、実現を2030年まで先送りにした。一方、投資家は、投資回収の期間が予想よりもはるかに長いことを認識し始めており、電気自動車などのより興味深い分野に目を向けようとしている。イスラエルのスタートアップ企業は、今後数年間で年間数千万台の新車が販売されると予想される自律走行車の巨大で豊かな市場に対応するために、より現実的な分野に方向転換し始めている。


【イスラエル自動車技術産業の現在と未来:後編】はこちら

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