イスラエル製品を日本市場で展開する上での3つの注意点 【イスラエルとの縁-8-】
前回お話した通り、私はバイバージャパンの事業展開や現在実施中の数社の日本展開の支援を通じて、イスラエル製品を日本市場で展開することの難しさを痛感してきた。
今日は自身の経験や他から聞いた話から得られた日本市場展開の注意点を3つ、お伝えしたい。
1.イスラエル人にとって日本は謎の存在であるということ
まず前提として、イスラエルハイテクスタートアップが見ている展開マーケットは、米国と西洋が主流である。反対にアジアを意識しているスタートアップは珍しい。
我々日本人にとってイスラエルが身近ではないのと同様に、イスラエル人にとってアジアや日本は完全に謎の存在なのだ。
おそらく一般的なイスラエル人が日本について知っているのは”技術大国”というイメージくらいだろう。近頃は日本の衣食ブームによりクールカルチャーであるというイメージも進んでいるようだが、日本人の性格や趣味趣向、ビジネスを進めていく上でのしきたりや考え方についてはゼロ知識だと言っても過言ではない。(ちなみに、冒頭のユニークな寿司の写真は、イスラエルの本格的な和食店で出される寿司である)
ここを酌んだ上で協業していかないと、あとで本当に大変である。
実際に私がパートナーとして間に入る場合は、日本人ならではのコミュニケーションや行動について、歴史的な意味合いも含め、丹念に伝えることを欠かさない。
どちらの立場の人からもよくやるねと言われるが、私にとっては当然ともいうべき重要なことである。これを怠ると法的な問題に発展するまで関係を崩してしまうこともあるからだ。ここでは書けないが、事実そういった案件もいくつか扱っている。
2.競合に対する戦略の重要性
次に、競合対策についてである。
それ自体は日本市場が特別なわけではなく、海外市場へ進出する際には当然考えるべき点だが、やはりその市場独特の傾向というものは存在する。
実際、私も大いに頭を悩まされた。ものすごく強い競合がいる業界で、似たようなものを似たような形で出しても正直勝算は低い。
その昔、バイバーが日本でなぜ圧倒的な存在にならなかったのか、創業者のタルモンに聞いた事がある。
バイバーはVoIP & メッセサービスとしてはSkype社の次にサービスをローンチさせたため、割と早い時期からのプレイヤーである。実はサービスを展開してしばらくの間、日本でも無料ボイスとメッセの業界トップの地位にいた事もある。
では、そこからなぜ一気に他社に日本市場で巻き返されたのか。
タルモンの答えは(当然日本自体に人を置いたり、マーケティング活動をしたりしなかったというのもあるが、それを除いたところで)、初期に無料ボイスのサービスだけで展開していたからだというものだった。
当時は”世界中にスマホで簡単に無料通話できる”という斬新な発想にみんなが夢中になっていたため、バイバーでは無料通話に関する開発に照準を絞っていたのだ。
無料メッセージングやテキスティング機能をリリースする頃には、すでにそれらのサービスで日本市場を席巻する競合が現れていた。この間に一気に市場を取られ、巻き返しができなくなってしまったというのが彼の理屈である。
バイバーが驚異的にユーザーを伸ばしていた国では無料通話というのが主体的であり、メッセージングは二次的な追加機能であった。
しかし、日本市場のトレンドは真逆だったのだ。そしてこのメッセアプリの世界では、知人のつながりやソーシャルの側面がものをいうため、強い競合がその国の市場を押さえてしまうと巻き返しは至難の業になってしまうのである。
3.品質に関する考え方の違い
数ある違いの中でもっとも大きいのがこの感覚ではないだろうか。そして、特にコンシューマー向けサービスの場合はビジネスの成否に大きな影響を与える要素でもある。
周知の通り日本人は品質の高さを重視する。
プロダクトの完成度はもとより、その販売プロセスで得られた相手企業や担当者への信頼度にまで”高品質”を求めていると言っても過言ではない。
しかし、日本人が欲しがる機能や操作性にあったUI・UXの変更を考えても、イスラエル人は国ごとのカスタマイズをなかなか受け入れない。
品質に対する考え方は、日本企業とイスラエルスタートアップとでは基準が大きくかけ離れているのだ。
日本側が求める製品やサービスの品質を10段階の10とすると、おそらく彼らの大半は3くらいでよしと見ていると思う。そして、もしそれに関して欧米が求める品質レベルが10段階の6ならば、最終的な到達目標をレベル4か5くらいにおいて開発しているのである。
日本展開を一緒に実施するにあたり、まずこの基本的な考え方の違いをしっかりと理解しておくことが重要である。
10の品質を求めて言い合いをしても生産的な結果は生まれないだろう。レベル5くらいのところで、その先の10までへの完成度を共に歩んでいくのが理想だと思う。品質を高め、息が長くLTVが高い製品・サービスを改良して作り上げる能力は日本側の方が圧倒的に長けている。戦略的に棲み分けして歩んでいくことで、素晴らしい商品がうまれてくるはずである。
まとめ
繰り返しになるが、イスラエル人にとって日本は未知の世界で、日本人は謎の存在である。日本人特有の感性や流行に対する理解が至らないのは当然だ。
さらに、欧米市場での展開が念頭にあるので、なおのこと日本市場特有の傾向や要望には目が行き届かない。
日本市場進出を成功させるためには、まずは本質的な製品理解のもと、そのプロダクトの価値が何かをとことん考える必要があるだろう。その上で日本の市場環境を理解し、競合対策を含めた中長期的な戦略を立てるのである。
もちろん、市場に受け容れられるためには製品やサービスの品質にも注意を払わなくてはならない。なかなか骨の折れる仕事だが、今日お話した3つは忘れてはならない注意点だと思う。
次回は、日本進出の際に出てくる法規制や人事問題など、さらに具体的な注意点について触れたいと思う。
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