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リスク対イノベーション③〜イスラエル技術を海外展開させる際の人事労務マターについて


リスク対イノベーションと題し、2週続けて「一般法務」や「規制」の視点でイスラエル技術を日本(海外)へ持ち込む際の難しさについて触れてきた。

シリーズ3回目は、人事労務関連について触れてみたい。人材は企業にとって一番の資産であり、事業を動かす原動力である。ただ、同時に各人の感情や文化的背景に影響されるため、リスク対イノベーションという切り口では最も難しいファクターであると思う。実務を通じて初めて見えることも多く、経験値がものを言う。クロスボーダーになるとなおさらそうだろう。

「人事労務に関して、イスラエルスタートアップならではの特徴は何でしょう?」

「何が日本と違うのですか?」

「米国や欧州とも考え方が違うのですか?」

こうした質問を本当によく日系企業の方々から受ける。

職務曜日が日曜から木曜だとか、土曜にオフィスを明けていて監査を受けると警告処分を受けるだとか、そういったことは少し調べればわかることだ。重要なのは、実際の労務環境や人事に関する考え方である。そこで、私がバイバー(Viber)を含め複数のイスラエルスタートアップで仕事する中で感じた共通の傾向を取り上げたい。

勤務姿勢

先ずは勤務時間についてだが、これは皆まちまちであるように思う。早朝出勤して夕方早めに帰る人もいれば、朝はゆっくり10時頃に来て遅くまで働いている人もいる。そして往々にして彼らは勤勉だと言えるだろう。

問題が起こると何日か徹夜してでも直そうとする。とは言え、基本的にそれぞれ雇用契約書を締結しているので、厳密に言うと契約外の時間で勤務するのは違反になる。場合によっては解雇要因にもなり得るため、上司にきちんと話を通している。

雇用に対する考え方

イスラエルスタートアップはそもそも終身雇用の概念があまりない。日本の労働法とは違って、然るべきプロセスを通せば1,2か月で従業員を解雇することができ(妊娠時は含まれず)、日常茶飯事に行われている。ただし、プロセスを経ずに実施すると大変なことになる。従業員が訴えを起こすと、企業側が勝つことは殆どなく、莫大なお金を払うことになる。

さらに難しいのが、このイスラエル人メンタリティーで日本人を雇用して事業展開をした場合である。日本の感覚では雇用とは守られるもので、基本的に企業が解雇事由を勝ち取るには相当な理由がないと難しい。これがイスラエル人には全く理解できない。プロダクトやサービスを作りあげるのと同じように、人材も雇ってみてダメならすぐ変えればいいという発想なので、トラブルが起こりやすい。この点については私も(具体的には言えないが)色々と経験し、疲弊させられたものだ。

契約期間

私はイスラエルのスタートアップ向けに日本の人事労務の考え方やルールについてメンタリングしているが、この点についてはどの企業も同じような考え方である。カントリーマネージャーのポストでさえ、3か月か6か月の雇用契約を想定しているのが普通なのだ。「重職の採用で数ヶ月単位の雇用契約など日本ではあり得ない」と伝えたところで全く理解できないようである。

一方で、気に入ったメンバーとは長く付き合っていく傾向も強い。実際に、バイバー社の創業メンバー4人もOtonomo (オトノモ)社も、同じチームで連続して起業しプロダクトを作っている。

まとめ

ここまで3回にわたり法務や人事労務における「イノベーション対リスク」について考えてきた。会社の売り上げを伸ばし、次世代への飛躍を目指すにはイノベーションが不可欠だが、リスクも軽視できない。しかし法務や規制は解釈が難しく、前例や判例の少ないイノベーティブな事案ではなおさらである。人事労務についても、人はやはり気持ちで動くものである以上、相手の性格や文化的背景をしっかりと把握して接することが求められる。

振り返って思うのは、国ごとに法律やルール、文化が違うのは当然であり、ビジネスに影響を及ぼすのは「意識の違い」だということである。とにかく現地現物、実務実体験が全てを左右すると思うので、皆さんもぜひ、より多くの機会にイスラエルスタートアップと触れていただきたいと思う。


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